馬野周二氏のアメリカ素描(4)根をはった日本社会と根のないアメリカ社会

今日は歴史の浅いアメリカ社会についてです。馬野周二氏はそこにアメリカ文明滅亡の遠因があるという。



馬野周二氏の名著「人類文明の秘宝日本」(1991年、徳間書店)から第五章「日本文明の本質」1「聡明な日本人」の冒頭の一節「根をはった日本社会と根のないアメリカ社会」を下記に示します。



根をはった日本社会と根のないアメリカ社会



私は1960年にアメリカに渡った。三十年前のことである。当時の日本とアメリカの懸隔(へだたり)は甚だしいもので、東京の汐留あたりで掘割りを利用した一キロくらいの高速道路が初めてでき、時の池田首相が初乗りしたといった時代であった。アメリカではすでにあの広い大陸に高速道路は四通八達で、ニューヨーク─シカゴ間には、片側四車線のターンパイクが走っていた。一人当たりGNPも十倍以上の開きがあった。



もちろんもう戦後十五年も経っていたから、日本の状態も大分改善されていたし、アメリカの事情も十分に紹介されてはいたが、やはり見ると聞くとは大違いで、私は予想を遥かに超えるアメリカの力に、実際びっくりした。「貧すれば貪す」で、当時の日本人はコセコセとしていて、服装も良くなかったが、顔つきも感心しないものが多かったように思う。動作なども鈍かった。



当時私の見たアメリカ人は、今から見れば生活程度は今日よりは多少低かったが、みな悠々としていた。私が一番驚いたのは、彼らに相互の信頼が厚かったことだ、とくに東部あるいは南部の田舎町に行けば、整然とした環境で、美しい庭と家とが並び、正直で気やすい人達が穏やかに住み込んでいた。世の中には、なるほど楽園というものは、実在するものだな。これが私の実感であった。



だが私はニューヨークに住んで、相手にするのはもっぱら学者兼企業家といった連中と本物の実業家達だったから、このような、いってみれば古き良き田園的アメリカは、大都市の真ん中で今日的な利欲を生活の駆動力とする人達の背景として見えていたにすぎない。ニューヨークの都心に蟠踞(ばんきょ)するこれらの人達は、まったく別のアメリカを形成している。



私がアメリカに行った前後に留学した人達は、大部分、高名ではあるが田舎に所在する大学に留学していた。したがって彼らの見たアメリカは、伝統的な、ありし良きアメリカの残影であったとも見ることもできる。ニューヨーク実業界と田舎大学町とは、雲泥の差があった。



アメリカ社会は根底から急激に変化する。日本の社会変化には一見アメリカより急激であるように見える。だがその変化の仕方がちがう。すでに述べたように、日本はどうしても動かすことのできない根を持った社会である。変わるのは地上に出ている枝葉だけだ。ところがアメリカ社会には根がない。南米チチカカ湖の浮き島のように、外見からはとても動くなどとは信じられないが、全体が流されて動く。残念ながら、ありし良かりしアメリカは、ニューヨークの実業家的な世界に急速に呑み込まれてしまった。



三十年前のニューヨーク中心部には、すでに随分黒人が出てきてはいたが、彼らは何かまだ遠慮しがちに見えた。タクシーの運転手も白人であり、乗り降りには、車外に出て扉を開け、チップを貰うとサンキュー・サーといっていたものだ。会社の勤め人たちは低声で話し、黒っぽい背広を着て、黒のソフトを目深にかぶっていた。私はそんなニューヨークに住み込んだ。カリフォルニアはまた別の世界だったが。ところがこの状態は見る見るうちに変化した。大統領はアイクからケネディに替わり、そのケネディは白昼ダラスで撃ち殺された。黒人は大挙して南部の農村の小屋から北部大都会の都心に民族移動して、そこでスラム化させられた。白人は郊外に避難して、都心の土地は大幅に値下がりした。



この間に白人社会も大幅に変化した。黒ずくめの背広姿の会社員はヒッピーの中に掻き消えてしまい、かっては落書など考えられなかった地下鉄は、その満艦飾となった。注文品は期限通り届かず、無責任な仕事が増えた。清潔だったアメリカは、十年たたないうちにうす汚れてしまう。



大方のアメリカ人は、これをベトナム戦争のせいにする。実際ベトナム戦争はひどいものだった。アメリカ支配層が作り上げたものといってよい。しかしこのアメリカの急激な荒廃は、もっと深いところからきている。戦争と不況でそれは噴き出したのだが、その根はアメリカ社会、いやアメリカ人の心の奥深くに潜んでいたということだ。



「根をはった日本社会と根のないアメリカ社会」は以上です。



☆☆☆


そして同氏は同書おける上記記事の次の節「三十年前に直感したアメリカの衰退」で下記のように述べる。



「私は三十年前にアメリカに行ったのであるが、半年ぐらいで、ああ、この国には深い問題があるな、と感じた。なるほど今は最盛期だが長くはつづくまい。これが私の直感であった」



今から50年以上前の同氏の直感は的中し、米国は滅亡の時期をむかえつつある。



本日は以上です。

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Author:toroco
奴隷と戦争の野蛮で下らない西洋文明は終わりだ。新しい日本時代に向けて発言して行きたい。趣味は読書と盆踊り、愛知県在住、男性、Twitter(宙啐toroco)運営開始。